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本書には「あとがき」を記すことができなかったので、ここに記事としてアップしておきたい。
本書は京都に関する二冊目の著作となる。前著『京の花街ものがたり』(角川選書、2009年)は、近代京都の花街を少しひねりをくわえて論じたものであった。「ひねり」とは、わたしのひねくれた性格によるところも大きいのだが、お茶屋の集積する花街そのものというよりは、お茶屋に類する席貸をもふくめた「レンタル・スペース」業全般について歴史地理的な論を展開していることを意味する。 一書を仕上げてなお、この問題関心は尽きることがなく、ひきつづき資料の収集やら、学生たちと一緒にフィールドウォークをつづけてきた。そんななか、京都府立大学の上杉和央さんの誘いで、「京都市明細図」に出会うことになる。序章の一行目を思い出してほしい。本書は、ある意味で、「京都市明細図」にふれたことから生まれたといっても過言ではない。「京都市明細図」については、共著者のひとりである住沢杏子、そして福島幸宏氏(当時・京都府立総合資料館)とともに、「紫区画」に着目した分析をしており、そのときの研究もベースとなっている。 もうひとつは、担当する京都学関連の授業に備えて、あらためて近代文学を読み見直してみたことも、大きな糧となった。お気づきの読者も多いことと思うが、主要な人物のうち、登場する頻度が高いのはだれだったのか。それは、近松秋江である。彼は大正の京都風景を実にうまく描いている。もとよりわたしは文学者ではないのだから、作品世界そのものを解釈したり、ましてや評価することなどできないけれども、彼の作品の再読を通じて、文学のトポロジーを理解しえたのだった。席貸と文学との深いかかわりは、これまでほとんど指摘されてこなかったのではあるまいか。 本書を通じてやや異色なのは、祭礼に関わる諸章かもしれない。けれども、京都の〈遊楽〉を考えるという点では、スペクタクル性を備えた祭礼は、格好の素材となる。三浦実香と共著した「ねりもの」に関する章は、なによりもまず、加藤藤吉の写真の存在が大きかった。本文中に書いたことだけれども、偶然にも昭和最後となった「ねりもの」で使用された屋台や衣装が組合によって発見されたことも、わたしたちの執筆動機となっている。幸いなことに、彼女とわたしは、その最後の「ねりもの」に出演した富鶴さんにもお会いし、当時の様子をうかがうことができた。 執筆しながら感じていたことではあるのだが、読み返してみてよりいっそう強く思うのは、〈遊楽〉に関わる空間と文化が、構造的にジェンダー化されていたという点である。遊楽するのはほとんどの場合が男性であるし、もてなすのはあくまで女性である。文人はもっぱら男性であり異郷者(入洛者)でもあり、そうであるがゆえに「京のあたりまえ」を異化してみることもできたのだろう。だが、やはりそこにはさまざまなバイアスがかかっていることも否めない。この点については、別のところで論じたことがある。 さて、最後に共著者たちのことについてもふれておこう。住沢杏子・三浦実香・加藤千尋の三名は、いずれもわたしの京都学ゼミの卒業生である。三名とも、二回生のころから課外の巡検やまちあるきに積極的に参加し、卒業後も時間をつくっては巡検や夜話サロンに参加してくれた。加藤千尋との共著章は、複数回にわたって音読と推敲を繰り返したのでもっとも完成度が高かったものと自負しているのだが、他章とのバランスの都合上、3分の2以下の分量に圧縮せざるを得なかったことはまことに残念である。ここで削ぎ落としたネタは、京都学の授業で活用することとしたい。 今回、編集を担当してくれたのは、『モダン都市の系譜』でお世話になった酒井敏行さんである。末筆ながら記して謝意を表します。
by ponton1102
| 2017-04-01 20:48
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